『ムーン・パレス』ポール・オースターについて~父の死と向き合う~

みなさんこんにちは、ホントモです。

今日は最近読み終えた本、ポール・オースターの『ムーン・パレス』について読了の感想をブログにしていきます。また、後半は私の話が中心となります。

オースターってどんな人?

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Paul Auster、1947年2月3日 ~


まず初めに、著者であるオースターについてご紹介していければと思います。基本的にwikipediaからの情報ですが、自分なりにかみ砕いてご紹介していきたいと思います。

オースターはアメリカ人作家で、現在もご存命であられます。全く失礼な話ですが、ご自身の著書から放たれる古典的な雰囲気から、もうすでに亡くなった方かと思っておりました。私目の非礼をこの場で謝罪させていただきます。

さて、オースターは12歳の時に叔父から授かった段ボールいっぱいの本を読みふけり、のちに文学者として頭角を現すきっかけとなりました。『ムーン・パレス』(以下、単に著作と表記します)の中でも主人公のマーコ・フォッグも伯父から大量の本を受け取ります。専ら異なっているのは、フォッグが12歳の時ではなく、大学生の時であるという部分ですね。著作の中の表現は、ご自身の実際の経験を反映して表現したとされています。大学卒業後はメキシコやフランスで農作業などに勤しんでいたそうです。しかしながら、自身の金銭を使い果たしてしまったことをきっかけに、アメリカへ戻ることとなりました。その間、翻訳本や自身の著作を発表するなどして、文学者としての道を着々と歩んでいきました。

そんな折、1979年に父が亡くなり遺産を手にしたことで創作活動に没頭することとなりました。ポール・オースターとしての処女作である『孤独の発明』は、彼と父との関係性を描いた自叙的作品となっています。彼の作品の大きなテーマとされているのがアイデンティティや生きる意味を探すことです。著作の中でもそのテーマが巨大に表現されていて、読んでいるものが生き方を考えさせられたり、自分というものを改めて見つめ返すことができる内容になっていました。著作が発表されたのは1989年で、父が亡くなってちょうど10年の折だったというのも何かしら感慨深いものを感じてしまいますね。

『ムーン・パレス』について

実際に読んでみるとこれがまた独特なものがありました。私が読んだのは柴田元幸さんが訳したもので、新潮文庫から出版されています。

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『ムーン・パレス』新潮文庫より

なかなか手に取りたくなる表紙だと思いました。書店に行ってこの本を探し出したときとても見つけやすくて、手に取った時思わずかっこいいと思ってしまいました。本棚にあるとおしゃれさがあって、個人的には感触がかなり深く突き刺さりました。(笑)

さて、実際に読んでみるとこれがまた読みやすいのです。てっきり、翻訳本の類は少し読み辛さが生じるとすぐにやめてしまいたくなるのですが、この本は割合読みやすくて引き込まれました。また、フォッグの状況と自分の状況を比較しながら読んでいく楽しさもありました。あらすじは以下の通りです。

大学に通うマーコ・フォッグは幼いころに母を亡くした。父も知らない彼の心の支えであり、家族だったのが 伯父のビクターだった。ビクターはフォッグに多くの本を残してこの世を去っていった。天涯孤独となったフォッグは、放浪し、餓死寸前のところで友人のジンマーとキティに救われる。キティへ恋をし職がなかった彼は、ある求人を見つけ雇い手のエフィングという盲目で車いすの男性の目となり、感覚となるという奇妙な職を手にする。そして、エフィングの壮絶な過去を記録する役割を任せられ、これまで霧の中に紛れていた父との関係をフォッグと各人との出会いが紐解いていく、、、

 あらすじから受け取れるであろうことは、フォッグ自身かなり過酷な人生を歩んできているということです。ネタバレになってしまうので詳細を述べることはしませんが、事実フォッグは自身の遍歴を回想し、ある一つの重要な事実に気が付きます。専らそれは彼自身の家族のことです。ここまででの話の流れで気になった人はぜひ読んでほしいと思う一冊です。

『ムーン・パレス』と自分

わたし自身、両親とのつながりはフォッグと似たようなものがあったような気がしてます。私が中学生のころ、両親が離婚することになりました。近年では、離婚というとそれほど珍しいものでもないのですが、当時の私はこれまであった家族がなくなると思うといたたまれない気持ちになりました。もちろん離婚の原因は最悪なものだったのですが、父のことも母のことも愛していましたし、これからも父には会いに行こうと思っていました。ちなみに私は母親のほうについていくことになっていました。そんな中、母が病気で入院しなければならなくなりました。統合失調症という精神病です。三人兄弟(長男、長女、次男で私は末っ子でした)で、兄は自立していたので兄弟3人で暮らそうかという話が持ち上がりました。しかし、そう簡単にはいきませんでした。まだ、子どもだった兄弟で暮らすということが市役所には認められず、やむなく姉と私は児童養護施設、又は里親の下で暮らすということを余儀なくされました。

正直、どちらも私にとっては嫌な選択でした。当時高校に入学して1年生でした。環境の変化、生活の変化がいろいろと重なって、体調も崩しましたし非常に後ろ向きな考え方になっていたのが事実です。結局里親が見つかったので里親のもとへと身を寄せることになりました。全くの赤の他人と高校3年間を過ごしました。落ち着ける日などなく、安息するはずの家という場所が、私にとっては気を使う場所となっていました。今思えば、よく発狂しなかったなと思います。そのぐらい精神的に不健康だったような気がしています。

心の支えとなったのはかけがえのない友人

そんな中、心休まる瞬間というものがありました。それは高校です。当時、私は地元の進学校に通っていました。入学した当初は大学に行くつもりはなかったのですが、今は大学に通っています。私を大いに救ってくれた友人たちは特に何をしてくれたわけではありません。ただ学校で会話し、笑いあうことが何よりの安らぎでした。そして私の救いだったのです。著作のフォッグも友人や恋人と出会って、荒涼としていた人生に一筋の光を見出します。私もちょうどそのような気分でした。人と接することは苦手なほうですが、自分が信頼している人や尊敬している人には人生を豊かなものにしてくれる作用があると思います。友達は多いより、深く付き合える数人のほうが重要だと感じたのもこうした経験があったからなのかもしれません。

いま、大切な人との「死」と向き合う

私は実は今大学4年生です。新型コロナウイルスの影響が日本にも大きく出始めたころ、父が亡くなりました。或る日、一人暮らしをしている父のもとへ行くと、台所で倒れてなくなっていました。その時私は、父は単に寝ているのだと思いました。テレビにはいつも見ていた有線放送の時代劇が流れていました。いつもは「おお、、」と言って起き上がるはずの父が、いくら呼び掛けても起きませんでした。父の腕に触れ、揺り動かそうとしてもびくともしません。体はすでに石のように固くなっていました。その時、父が死んでいるということを悟りました。ことばでは言い表せない感情の波が私を襲ったことを今でも覚えています。

就職活動に手が付かず、しばらくは自宅で過ごすようにしました。何をするにも億劫になった時期が幾度となく襲ってきました。時には出かける気力もありましたが、ほとんど家にいました。父がいないのだとふと気が付くたびに、目からは何かがとめどなく溢れてきて、こころの声にならない叫びが静かな部屋に五月蠅いぐらいに響きました。でも、その響きは誰にも届かない、自分にしかわからない悲痛な叫びになりました。

時間が全部癒してくれる

いまこうしてブログを書いていられるのは、父の死から時間がたったからです。正直、今でもつらくなることはありますが、それは仕方のないことだと思っています。また、大切な人の死と向き合って、自分とも正しく向き合おうとするようになりました。そのために、大学の心理カウンセリングの先生のもとへ行って、これまでの生活を見直そうとする機会ができました。時間は徒に過ぎていくものでもありますが、人生の重要な局面に自分が遭遇したとき、自分に寄り添ってくれてくれるものだと思います。これを読んでいる人の中にも、大切な人やペット、様々な死と向き合うことがあったかもしれません。初めて遭遇する死というものに辟易しているかもしれません。でも、私がそうだったように家族や友人、カウンセリングの先生など、寄り添ってくれる存在が必ずどこかにあります。もしなければ、私に連絡してきてください。できる限り相談に乗ります。

一人でも多くの悲しみに包まれた人が、「今」に立って自分を見つめ返せるように願っています。

最後に

ここまで興味を持って読んでくれた方ありがとうございました。人生は何があるかわかりませんね。私もまだ20数年しか生きていませんが、印象的なイベントが何度もありました。人生は先に何が待っているかわからないから不安でもあり、楽しみでもあります。どんな未来が待っていても、他でもない自分が生きている中心です。それをかみしめていくだけで充分だと思えます。ありがとうございました!

 

ホントモのgmailです。いたずらはやめてくださいね。(笑)

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